診療科の特色
現在、2名の耳鼻咽喉科専門医が常勤医として勤務しています。
高気圧タンクという労災病院ならではの施設を利用して、突発性難聴の治療に威力を発揮しています。手術は口蓋扁桃摘出術と鼻内内視鏡手術が多く、耳下腺腫瘍・甲状腺腫瘍も月1例程度行っております。ナビゲーションシステムや術中モニタリングシステムを利用して、より合併症の少ない手術を心がけています。
甲状腺・耳下腺・顎下腺・頸部リンパ節などに積極的に超音波検査を行っており、診断精度を高めるべく、耳鼻咽喉科医自らが直接施行しています。
スタッフ紹介
-
花栗 誠
- 耳鼻咽喉科科長
- 耳鼻咽喉科部長
(1996年卒)
- 診療科
- 頭頸部腫瘍/咽喉頭腫瘍/甲状腺/めまい・平衡/耳鼻科救急
- 所属学会
- 日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門研修指導医・耳鼻咽喉科専門医/身障指定医/日本耳鼻咽喉科学会認定騒音性難聴担当医
-
東 明紗
- 耳鼻咽喉科医師
(2019年卒)
- 診療科
- 耳鼻咽喉科全般
対象とする主な病気
突発性難聴
初診時に誘発耳音響放射(DPOAE)による他覚的聴力検査を行い、本当に感音難聴が存在するのかを確認した上で治療を開始します。ステロイドの全身投与に加え、高気圧酸素療法(2気圧80分)を行っています。当院は耳鼻咽喉科常勤医のいる北九州市で唯一の高気圧酸素施設です。ステロイドの全身投与に反応しない症例、全身投与ができない症例(肝炎ウイルス陽性、透析患者様など)にはステロイドの鼓室内投与を行っています。
【誘発耳音響放射(DPOAE)とは】
健康な内耳が発生させる音をマイクロフォンで拾い、内耳障害があるかどうかを客観的に評価する検査で、新生児に難聴があるかどうかを調べるためにも使用されています。この検査にパスした場合は、(後迷路性難聴のような例外を除き)40dB以上の難聴はないと考えられています。
現在高気圧酸素療法は、マンパワーの関係上、入院患者様のみ行っております。ステロイドの全身投与は通院でも可能ですが、糖尿病の方は血糖コントロールのため入院が必要です。また、突発性難聴以外の急性感音難聴(音響外傷・内耳炎など)、末梢性顔面神経麻痺には高気圧酸素療法の保険適応がないため、残念ながら施行できません。
高気圧タンクの内部。複数同時治療可能で広いため、閉所恐怖症のある方でも入ることができます。テレビもあり、80分退屈せずに過ごせます。
顔面神経麻痺
発症後一週間でENoG(Electroneurography)を行い、予後判定を行います。全身状態に問題なく、ENoG値が低い患者様には、ステンナート法という、高用量のステロイド投与を行っています。
【ENoG(Electroneurography)とは】
顔面神経を左右同じ強さの電流で刺激し、刺激によって起こった表情筋の収縮を筋電図として記録し、麻痺のない側を100%としたとき麻痺のある側の表情筋の収縮が何%であるかを調べるものです。この値が大きい(100%に近い)ほど予後はよく、小さいほど重症です。顔面麻痺発症後1週間のENoG値が40%以上であれば発症後1~2か月以内に治癒すると考えられ、40%に満たない場合は、数値が小さいほど改善に時間がかかり、20%未満の場合は完全には治癒しない場合もあります。
鼻・副鼻腔内視鏡手術(ESS)
副鼻腔炎・副鼻腔嚢胞などの手術は、全身麻酔下に内視鏡を用いて行っています。副鼻腔は頭蓋底・眼窩に近接しており、再手術例など危険な症例はStryker社製のナビゲーションシステムを利用し、安全に手術を行っています。
保存的治療でも症状コントロールの難しい重症のアレルギー性鼻炎の方には、鼻中隔矯正術・粘膜下下鼻甲介切除術だけでなく、ハーモニックスカルペルによる後鼻神経切断術を行っています。眼窩骨折はまだ症例数が少ないですが、可能な限り経鼻的に内視鏡下手術を行い、歯齦部や顔面に傷ができない整復術を施行しております。
ナビゲーション使用時の手術風景。左側が内視鏡のモニターで右側がナビゲーション用のモニターです。
アデノイド手術
当科では、古典的なアデノイド切除術でなく、上記内視鏡を用いた切除術を行っています。アデノイドを直接観察しながらの切除が可能で、耳管の損傷が極めて少ないこと、古典的なアデノイド切除術よりもアデノイドの再発率が低いことが証明されています。
甲状腺手術
ほぼ全例に術前に甲状腺エコー・エコー下穿刺吸引細胞診を行い、手術の要否を検討します。濾胞性腫瘍の場合は、細胞診による良悪性の判定は困難なため、3cmを超える場合は、手術をおすすめしています。甲状腺手術において反回神経損傷による声帯麻痺が問題となりますが、当院では気管内挿管チューブにセンサーを装着して術中に声帯のモニタリングを行い、反回神経温存に留意しています。
耳下腺腫瘍
甲状腺腫瘍と同じく、ほぼ全例に術前に耳下腺エコー・エコー下穿刺吸引細胞診を行い、手術の要否を検討します。耳下腺内には顔面神経(顔面の表情筋を支配する運動神経)が走行しており、これを損傷すると術後顔面神経麻痺が起こってしまうため、当科の耳下腺手術では全例にNIMシステムを利用し、顔面神経を同定・温存し、術後顔面神経麻痺の防止に努めています。
【NIMシステムとは】
米Medtronic社製の神経刺激装置で、非常に精度の高い運動神経の同定が可能な装置です。索状物が運動神経かどうかを確認することはもちろん、手術操作中に運動神経にわずかでも刺激が加えられた場合運動神経が近いことを術者に音声で知らせてくれます(これをモニタリングといいます)。
嚥下障害
リハビリを行っても嚥下不能な症例・誤嚥性肺炎を繰り返す患者様に対し、発声機能喪失を伴うことに対して患者様ご本人・ご家族の同意が得られた場合は気管食道分離術・喉頭全摘出術などを行っております。
喉頭全摘後の音声獲得
喉頭全摘を行った患者様には、音を発生させるために必要な声帯がありません。下咽頭の粘膜を声帯の代わりに振動させて音声とするわけですが、粘膜を振動させるためには大量の空気が必要で、喉頭全摘術は気道と食道を分ける手術であるため、肺の空気は利用できなくなり、胃にためた空気をゲップのようにして下咽頭を振動させるのが食道発声法です。食道発声法は習得が難しく時間がかかります。当科ではProvox vegaRという装具を用いて、気管と食道の間に一方通行の通路を作り、喉頭全摘前と同じように肺の空気を利用して発声させる方法で早期に音声の再獲得ができるよう患者様の支援を行っています。
リンパ節生検
リンパ節腫脹が持続する場合、その最終的診断にはリンパ節生検が必要になりますが、固形癌のリンパ節転移であった場合、不用意にリンパ節生検を行うと、皮下に癌細胞を播種させてしまう可能性があるため、リンパ節生検の前にエコーガイド下の穿刺吸引細胞診を行い、固形癌のリンパ節転移の可能性が低い症例に限ってリンパ節生検を行っております。
検査・治療について
当科で可能な検査・治療 |
|
---|---|
当科でできない検査・治療 |
|