骨軟部腫瘍外科
骨軟部腫瘍外科はどういうところ?
当院は、2016年4月に骨軟部腫瘍外科を開設しました。
「こぶ」には様々なものがあり、必ずしも治療する必要がない「こぶ」から、手術や薬物治療が必要な疾患まで多岐に渡ります。骨軟部腫瘍外科では、骨軟部組織に生じた「こぶ」に対する診療が中心となります。
骨軟部腫瘍とは?
「骨軟部腫瘍」とは、骨に発生した腫瘍と、筋肉や脂肪組織などに発生した腫瘍の総称です。最新版のWHO分類では、骨軟部腫瘍は170種類以上もの種類があります。また、良性から、中間性、悪性のものまで、悪性度も様々です。悪性の骨軟部腫瘍は「肉腫」と呼ばれ、希少がんの一つです。
軟部腫瘍
厳密な意味での軟部腫瘍とは、線維組織、脂肪、筋肉、血管、リンパ管、神経、滑膜などに生じる種々の腫瘍性疾患ですが、ガングリオン、類表皮嚢胞(粉瘤)や滑液包炎など非腫瘍性疾患も腫瘤(いわゆる「こぶ」)として触知されます。非常に多くの種類があり、またほとんどの腫瘤が無症状であるため、専門的な知識をもって診療に当たる必要があります。
軟部腫瘍診療の流れ
病歴について
軟部腫瘍は、検診などで見つかることはほとんどなく、患者様ご自身が腫瘤に気づいて来院されることがほとんどです。何年も前から気がついていた腫瘤から、比較的最近気がついた腫瘤まで、病歴は様々です。 一般的に、年単位でゆっくり大きくなるのは良性腫瘍や低悪性度軟部腫瘍を、週単位や月単位で大きくなる腫瘤は悪性軟部腫瘍を疑います。
検査について
- 超音波検査(エコー)
- 当科では、初診日ほぼ全例に超音波(エコー)検査を実施し、腫瘤の局在(脂肪の中なのか、筋肉の中なのか)を確認し、血流の有無などを検査します。超音波検査だけで診断がつく疾患もあります。
- MRI
- MRIは、軟部腫瘍の診療において必須の検査となります。腫瘍の性状や局在、サイズなどを確認することができますが、MRIで良悪性の診断は困難です。MRI検査は予約制になりますので、紹介元から持参されると、その後の検査、診察がスムーズになることが多いです。
生検および病理検査について
「生検」とは?:患部の一部を切り取ること
「病理検査」とは?:切り取った患部を、顕微鏡などで調べる検査のこと
- なぜ生検が必要?
- 骨軟部腫瘍を含めた「こぶ」は非常に沢山の種類があるため、MRIなどの画像検査で診断できる疾患は限られています。「こぶ」の中には、必ずしも治療が必要がないものや、薬で治ってしまうものもあります。また、軟部腫瘍の中には、切除が望ましくないものもあります。そこで、あらかじめ患部を一部だけ採取して、「病理検査」を行い、病気の種類を診断します。
「こぶ」の中身がわからない場合には、一部採取して顕微鏡の検査をします
軟部腫瘍の生検
3cmを超える腫瘤の場合は、生検、病理検査を行います。
- 針生検
- 切開することなく、太さ1.5mmほどの針を用いて行います。腫瘤が奥深くに存在してどこにあるかわかりにくい場合には、CTを撮影しながら針生検を行うこともあります(CTガイド下生検)。利点は、外来で局所麻酔で行えるため、初診日にも行えますが、欠点は採取できる組織量が少ないため、確定診断に至らないことがあります。
- 切開生検
- 瘤を一部切開して、組織を一部採取します。十分な組織量が採取可能です。腫瘍の種類によっては止血が困難なこともあるため、止血ができる体制を整えた手術室で行います。『組織試験採取』という検査手術になるため、多くの場合には入院となります。
いずれの方法でも、組織採取から病理診断まで1−2週間程度必要です。
CTガイド下生検の例:CTを撮影しながら、生検針を深く進めていきます。
治療について
軟部腫瘍の基本治療は、外科的切除です。
- 良性軟部腫瘍の治療
- 切腫瘍を正常組織から剥離し、切除します(辺縁切除)。当科において、頻度の高い疾患は、脂肪腫、神経鞘腫になります。
- 悪性軟部腫瘍の治療
- 腫瘍が露出しないように、周囲の正常組織で包むように切除を行います(広範切除)。
- 追加広範切除について
- 2cm以下の小さな腫瘤の切除生検後、あるいは患者様の希望などにより事前の生検なしで切除された後に、病理検査で悪性軟部腫瘍と判明した場合、可能な限りすぐに初回の手術創の周りを大きく切除する切除(追加広範切除)が必要になります。再発するまで待ってはいけません。
薬物療法について
悪性度の高い軟部腫瘍は薬物療法が必要なことがあります。詳しくは、担当医にお尋ねください。
放射線治療について
適切な広範切除による局所制御率(再発しないこと)は約90%ですが、腫瘍が大きくぎりぎりでの切除となった場合には、術後放射線治療を追加することで、局所制御率が向上することがわかっています。
診療実績
骨腫瘍
診療の流れ
- 骨腫瘍は、成人では疼痛を訴える患者に対して単純X線を撮影したときに発見されることがほとんどで、稀に外傷などで単純X線を撮影したときに偶然発見されることがあります。乳幼児などでは跛行や外観上の膨隆に対して発見されることがあります。
- 偶然見つかった骨病変は、臨床的に問題にならないことも多く、進行しないことを確認する経過観察となることもしばしばあります。
- 高齢者では、がんの骨転移の頻度が高くなるため、がんの既往、喫煙の有無など、病歴聴取も重要です。
- 骨腫瘍のほとんどは、痛みが主訴になりますので、X線検査で見つかった異常部位と痛みの部位が一致しているかが診察のポイントです。
- 骨腫瘍の診断においては、単純X線検査が基本です。
- 疾患によって好発年齢、発生頻度、好発部位が異なる特徴があります。これらの情報と、病歴、理学所見、検査所見を組み合わせることで、疾患を類推します。
検査について
進行性骨腫瘍が疑われた場合、MRI、CT、骨シンチグラフィーなどが行われます。病理検査は、基本的に軟部腫瘍と同様です。
骨腫瘍診療の流れ
治療について
骨腫瘍の基本は、外科治療です。
良性骨腫瘍の治療 疾患の種類によって、切除や掻爬(かき出すこと)を行います。当科において、頻度の高い疾患は、骨軟骨腫(切除)、内軟骨腫(掻爬)になります。
- 悪性骨腫瘍の治療
- 悪性軟部腫瘍と同様に、腫瘍が露出しないように広範切除を行います。欠損した骨は、人工関節などで再建します。
- 脊椎腫瘍の手術について
- 当院では、四肢発生の骨腫瘍は、骨軟部腫瘍外科が担当し、脊椎発生の骨腫瘍は脊椎外科が担当しています。
薬物療法について
悪性度の高い骨腫瘍は薬物療法を行うことがあります。疾患によって薬剤が異なるため、詳しくは、担当医にお尋ねください。
放射線治療について
悪性骨腫瘍のほとんどは放射線治療抵抗性ですが、放射線感受性の高いEwing肉腫などでは放射線治療を組み合わせることがあります。
重粒子線治療について
2016年4月より、手術非適応の骨軟部腫瘍に対して、重粒子線治療が保険適応となりました。当院は、九州国際重粒子線がん治療センター(通称、佐賀ハイマット)と連携し、速やかに診療にあたります。