脳腫瘍とは?
頭蓋骨の内側にできる腫瘍のことで、その場所で最初から生じた原発性脳腫瘍と他の部位のがんが転移した転移性脳腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍は脳そのものからできた脳実質内腫瘍と脳を包む膜や神経などからできた脳実質外腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍は体の他の部分の腫瘍と同様に良性および悪性腫瘍に別れます。
原発性脳腫瘍の発生は人口10万人あたり年間10-12人といわれています。
症状
脳腫瘍は頭蓋骨内側の限られたスペースにできるため、ある程度の大きさになると腫瘍の種類に関係なく頭痛、嘔吐、目が霞む(視力障害)いった症状をきたします。またけいれん発作もきたします。こういった一般的な症状に加えて脳腫瘍の発生した部位の働きが障害され、麻痺や言語障害といった局所症状と呼ばれる症状をきたします。
診断
症状から脳腫瘍が疑われた場合は、CT, MRIなどの画像検査を行うことにより脳腫瘍のあり、なしやどの場所にあるかなどが診断できます。必要に応じて造影剤を用いたり、シンチグラム、脳血管撮影、腫瘍マーカーなどを追加します。
治療
脳腫瘍が大きくなってくると脳を傷害し様々な症状をきたします。たとえ良性腫瘍であったとしても部位、大きさにより命を脅かす危険性があるのが脳腫瘍の特徴です。もちろん無症状の場合は画像経過観察されることもあります。治療を必要とする場合は手術が基本となります。脳は部位によって機能が分かれていますので、腫瘍の場所により後遺症が残る可能性があります。また腫瘍の種類によっては放射線治療、化学療法が必要となることもあります。腫瘍の種類、発生部位によって治療方針が異なってきます。
代表的な3つの腫瘍に対する治療について述べていきます。
髄膜腫
脳の外側、頭蓋骨の裏側にある硬膜という膜から発生する腫瘍で大部分が良性です。良性ですので、大きくなるスピードは癌などと違ってゆっくりしていて、転移しません。まれに急速に大きくなるものがあり悪性髄膜腫といわれ、転移することもあります。
治療の基本は手術による摘出になります。再発を防ぐためには腫瘍を摘出するだけでなく、周囲の硬膜をある程度一緒に摘出するのが理想です。ただし腫瘍のできる場所によっては必ずしも十分かつ安全に摘出できるとは限りません。
手術以外には放射線治療があります。手術後に摘出しきれなかった場所や手術が困難な場合に最初から放射線療法を行う事があります。大きく2種類あり、1日あたり少しずつ放射線を数週かけてあてる方法と一度に腫瘍に絞って大量の放射線を当てる定位的放射線治療の2つに分けられます。放射線により周囲の脳が腫れたり機能障害をおこすこともあり万能ではありません。
神経膠腫(グリオーマ)
神経膠腫は脳そのものから発生した原発性腫瘍の代表的なものになります。 悪性度(グレード)が1-4まで分類され良性腫瘍のほとんどは悪性度が1になります。 原発性悪性脳腫瘍の代表的なものです。
星細胞腫系 | 乏突起膠腫系 | 混合性腫瘍 | |
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グレード1 | 毛様状星細胞腫 | ||
グレード2 | びまん性星細胞腫 | 乏突起膠腫 | 乏突起星細胞腫 |
グレード3 | 退形成性星細胞腫 | 退形成性乏突起膠腫 | 退形成性乏突起星細胞腫 |
グレード4 | 膠芽腫 |
脳腫瘍はWHOの分類では150種類と多岐にわたるため手術による診断が必ず必要となります。神経膠腫の治療原則は、可能な限り手術的に腫瘍を摘出し病理診断をつけ必要時には術後放射線治療ならびに化学療法が行われます。
脳腫瘍全国統計(1984-2000年) | 5年生存率(%) | 治療 | |
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グレード2 | 星細胞腫 | 67% | 手術+放射線治療 |
乏突起膠細胞腫 | 82% | ||
星細胞腫 |
転移性脳腫瘍
頭蓋内以外の場所の癌が頭蓋内に転移し大きくなったものです。平均寿命がのび、がん治療の成績向上とともに増加し全脳腫瘍の16%以上をしめるようになっています。
治療
周囲の脳への圧迫を取り除き腫れを少なくする必要があります。脳以外のがんの状態から予想される生存期間が3ヶ月以内であるなら薬剤による脳の腫れをコントロールする保存的治療を行います。予想される生存期間が6ヶ月以上の場合は単発の場合は手術+放射線治療を多発の場合は放射線治療を考慮します。6ヶ月以内の場合は患者様の状況により治療法を検討する必要があります。
放射線治療について
転移性脳腫瘍の治療には放射線治療が重要な役割を果たしています。脳全体に照射する全脳照射と腫瘍のみに1回で多くの放射線をあてる定位放射線の2種類になります。全脳照射は2-3週間かけての治療を行います。定位放射線治療は腫瘍の大きさが小さく転移巣が数個以内の場合治療が短期間(通常2泊3日)で済むこともあり我が国ではしばしば選択されています。
転移性脳腫瘍はガンの転移で治癒させることは難しく予後不良とされています。患者様一人ひとりの状態に応じていろいろな治療法の選択がありますので主治医や専門医と相談しながら治療を行っていくことが重要です。