独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院

皮膚がん

はじめに

皮膚は表皮、真皮からなりその下に皮下脂肪織があります。

表皮は数層の細胞からなる薄い組織で、表面から、角層、顆粒層、有棘層、基底層からなります。基底層での分裂で生じた細胞が角質になるまでを皮膚のターンオーバーといい,これに要する時間はおよそ28日間とされています。基底細胞の間にところどころメラニン細胞があり、メラニン色素を産生します。 真皮はコラーゲンなどの線維組織からなり、微小な血管網、神経を有しています。毛や脂腺、汗腺などの皮膚の附属器は表皮から真皮さらに皮下にかけて存在します。皮膚はこのように様々な組織から構成されており、これらの組織から悪性腫瘍が生じますので,皮膚癌には多くの種類があります。 ここでは、代表的な皮膚癌、および前癌状態(表皮内癌)について紹介します。

皮膚の解剖図① 皮膚の解剖図②

悪性黒色腫

最も悪性度の高い皮膚癌です。メラノーマという名称で呼ばれています。いわゆるホクロの癌で身体のどこにでもできますが、日本人の場合は特に足の裏に多いのが特徴です。手足の爪の下や爪のまわりにできることもあります。50歳代から増加し、60歳代、70歳代に最も多く発症します。また、発症数は少ないが20~30歳代にもみられます。種類は見た目や組織の特徴から、『末端黒子型』 『表在拡大型』 『結節型』 『悪性黒子型』の主に4つの種類があり、また、粘膜などに発生するものもあります。

悪性黒色腫と診断するには、まず肉眼やダーモスコピー(拡大鏡)による観察を行います。そして確定診断や腫瘍の性状を調べるために病変を一部採取して組織を顕微鏡で調べる生検がおこなわれます。診断が明らかな場合は生検が行われない場合もあります。診断に至ったら、他の部位への転移の有無を調べるための画像検査(X線検査、超音波検査、CT、MRI、PET)などが行われます。

初期のメラノーマは切除だけで治ります。また転移がない場合は術後に転移や再発を防ぐために術後補助療法として化学療法、インターフェロン療法などの薬物療法が行われる場合があります。他の臓器に転移がある場合や手術ができない患者様には、薬物療法を中心とした治療が行われます。進行したメラノーマは最近まで良い治療法がありませんでしたが、近年多くの免疫の薬が有効である事がわかってきました。

悪性黒色腫① 悪性黒色腫②

基底細胞癌

表皮の最下層にある基底細胞から発生する癌で,日本人では最も頻度の高い皮膚癌です。全体の約80%が頭部、顔面に発生し、紫外線が関与しているとされています。表面が光沢のある黒色をした腫瘤であることが多いです。中心部や一部が潰瘍となることもよくあります。目の周囲や鼻,口の周囲など顔面に好発しますが,手のひらや足の裏にできることはごくまれです。転移する事が少ないのが特徴です。

診断には特にダーモスコピー(拡大鏡)が有用です。皮膚科医必須の診療器具であり皮膚の表面の色調だけでなく皮膚の中にあるメラニン色素なども観察する事が可能です。5mm 以上離して切除するのが原則ですが潰瘍を伴うものなどでは,十分に深くまで切除する必要があります。

基底細胞癌① 基底細胞癌②

有棘細胞癌

表皮の大部分をしめる有棘層の細胞から発生する癌で,皮膚癌の中でも比較的多いものです。紫外線、慢性刺激、慢性炎症、放射線などが関与していることがわかっており,多くは何らかの前駆病変に生じます。近年は日光曝露による光線(日光)角化症から発生する例が増加してきています。

表面が疣状やびらん・潰瘍などを示す皮膚色や淡紅色の腫瘤で,潰瘍を形成することもあります。全身のどこにでも生じ,大きくなると独特の悪臭を伴ってくることがあります。 転移はリンパの流れに沿って生じることが多いです。基本的には外科的切除が第一選択となります。発生部位や大きさによって再発の危険度が異なり,それらに応じて通常5mm~数cm離して拡大切除し、所属リンパ節転移があればリンパ節郭清も行います。癌の切除後に組織欠損が大きい場合には、植皮や皮弁などで欠損部をカバーします。抗癌剤や放射線に対する反応は比較的良好なので,病期と症例によっては化学療法や放射線療法を併用します。進行例では症例ごとに異なりますが、外科療法、放射線療法、化学療法を併用した治療になります。

有棘細胞癌① 有棘細胞癌②

ボーエン病

ボーエン病は、表皮内に限って生じる表皮内癌の一種です。有棘細胞という表皮内の細胞が悪性化し皮膚で増殖していますが、その増殖は表皮の中だけに留まっており、まだ真皮にまでは及んでいない状態で,この状態に留まっている限りは転移を生じません。放置していると癌細胞が深くまで入り込んで有棘細胞癌(ボーエン癌)になり転移する可能性が生じます。見た目は淡い紅色から褐色調である事が多く、表面はがさがさと乾燥して剥がれやすい皮膚やカサブタが付いている事もあります。治療の第1選択は手術で、周囲の約5mmまでの正常な皮膚も含めて切除します。小さいものは縫い寄せて治せますが、大きいものは植皮術が必要となります。

ボーエン病① ボーエン病②

日光角化症

日光角化症は、長期間にわたって日光(紫外線)によく当たったところにできる前癌病変の一種です。顔面や手背など日光暴露されやすい場所に数mm~数cmの大きさの紅色を帯びたざらざらした局面となります。境界がはっきりしないものが多く,年齢によるしみと同時に生じることが多いです。進行すると有棘細胞癌になることがありますが,日光角化症の段階では転移することはありません。治療は手術による切除が確実ですが、液体窒素などによる凍結療法,免疫調整薬(イミキモド)を塗る方法などもあります。

日光角化症① 日光角化症②