独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院

肝臓がん

はじめに

肝臓の癌は、肝臓から発生する原発性肝癌と、別の臓器に発生した癌が転移する転移性肝癌に分かれます。原発性肝癌は、肝細胞から発生する肝細胞癌、胆管細胞に由来する胆管細胞癌、そのほかのまれな癌に分かれます。日本では、原発性肝癌の90%以上を肝細胞癌が占めるため、一般的に肝癌とは肝細胞癌のことを指します。

日本人の悪性新生物による死因の中で、肝細胞癌は第5位(男性:4位、女性:6位)です。肝細胞癌の死亡率は10万人あたり約23人で、死亡者は年間3万人ほどです。死亡率・罹患率ともに、男性では45歳、女性では55歳から増え始め、70歳代で横ばいになります。(2016年、癌対策情報センターのデータ。)死亡率・罹患率ともに男性が女性の2~3倍高くなっています。日本での肝細胞癌の死亡率の年次推移は男女ともに減少傾向にあります。

肝細胞癌は、慢性肝炎や肝硬変を背景として発生することがほとんどです。日本では、その原因としてウイルス感染によるものが重要で、日本の肝細胞癌の約60%がC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染、約15%がB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染によるものとされています。その他にも、アルコール性肝疾患、肥満・糖尿病等の生活習慣病を背景として発症する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、等の慢性肝疾患が、肝細胞癌の背景疾患と考えられています。

肝細胞癌は、もともと肝臓が悪い人に発生し、多発することも多く、再発率が高く、抗がん剤が効きにくい、といった特徴を持っています。このため、標準的な治療ができない場合も多く、様々な治療法が考案されています。また背景肝(ウイルス性肝炎等)に対する治療が肝細胞癌再発を抑制することも分かってきています。多様な治療の中から個々の患者様に最善の治療を行い、その後の再発を予防するためには、内科・外科・放射線科がそれぞれ十分な技術をもったうえで緊密に協力して治療に当たる体制が不可欠です。当院は、肝細胞癌の診断、治療に必要な設備、マンパワー、システムが備わっている病院です。

診断

肝細胞癌の診断は、血液検査(腫瘍マーカー)と画像検査を組み合わせて行います。大部分の肝細胞癌は画像診断のみで確定診断が可能です。

腫瘍マーカー
AFP(αフェトプロテイン)、PIVKA-II(ピブカII)があります。血液検査で、これらの値が上昇していた場合、肝細胞癌の疑いがあります。
腹部超音波検査(腹部エコー)
超音波を用いて肝臓の断面像を得る検査です。身体に悪影響がなく、簡便で安価なため最も一般的に施行されます。造影剤を使用した超音波検査では、従来検出されにくかった病変も捉えることができ、より詳細に腫瘍の性質を調べることができます。
コンピューター断層撮影法(CT)
X線を当て身体の断面像を得る検査です。ヨード造影剤を用いた造影CTでは、より詳細に腫瘍の性質、周囲血管との関係、等が分かります。同時に、肝臓以外の臓器に転移がないかも見ることができます。
磁気共鳴画像(MRI)
強力な磁石を用いて身体の断面像を得る検査です。ガドリニウムという造影剤を用いたMRI検査は、CT, エコーと比較してより早期の病変を検出することができます。
血管造影
足の付け根の動脈よりカテーテルを挿入し、肝臓を栄養する動脈(肝動脈)へ進め、造影剤を流しながらレントゲンやCTを撮影する検査です。経肝動脈的治療の際に行います。
その他の画像検査
肝臓以外の臓器に転移する可能性がある場合、頭部MRI、胸部CT、骨シンチ、FDG-PET等の検査を行います。肝硬変を有している場合、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で静脈瘤の有無を検索します。
針生検
エコーで病変を描出しながら細い針を刺し、少量の腫瘍組織を採取し、顕微鏡で観察し診断をつける方法です。出血したり、腫瘍を広げてしまう可能性があるため、必要がある場合のみ行われます。

治療

肝細胞癌に対する治療法には、1)外科的治療(肝切除、肝移植)、2)穿刺局所療法(焼灼療法)、3) 経肝動脈的治療(塞栓療法:肝動脈塞栓療法、肝動注化学療法)、4)放射線治療、5) 化学療法、6)緩和ケア、があります。これらの治療の中から、癌の大きさ、個数、癌の広がり、肝機能、全身状態、に応じて、最も適した治療法を選択して治療を行います。肝細胞癌に対する治療法の選択のおおまかな流れは、日本肝臓学会による「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版」(金原出版)の治療アルゴリズムを参照ください。

治療アルゴリズム

外科的治療

肝切除と肝移植があります。肝切除術は、手術により肝細胞癌そのものを除去する、最も確実性の高い治療です。手術による侵襲(体への負担)を軽減するため、2010年、2016年と、順を追って腹腔鏡を用いた肝切除術が保険適応となりました。腹腔鏡下肝切除術は施設認定が必要な高度な医療ですが、当院ではすべての腹腔鏡下肝切除を行うことができます。肝移植は、末期肝不全患者様に対する唯一の治療法で、基準に該当すれば保険も適応になります。非常に高度な医療で、当院では行っていませんが、適応があれば治療可能な施設に紹介します。

穿刺局所療法

エコーを見ながら、体の外から肝臓に針を刺し、癌に対する治療を行います。手術と比較し、侵襲(体への負担)は少なく、癌の大きさが3cm以下の場合治療効果は同等、と報告されています。無水エタノールを注入して癌細胞を壊死させるエタノール注入療法(PEIT)と、針の先端部分に高熱を発生させ癌細胞を焼灼壊死させるラジオ波焼灼療法(RFA)がありま

経肝動脈的治療

血管造影のカテーテルを用いて治療を行います。癌を栄養している肝動脈を選択的につめて(塞栓して)癌細胞を壊死させる方法を肝動脈塞栓療法(TAE)と言います。最近は、癌に取り込まれやすい油性物質に抗癌剤を混ぜて肝動脈より注入した後に肝動脈を塞栓する、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が多く行われます。抗癌剤のみを肝動脈より注入する方法を肝動注化学療法(TAI)といいます。肝動脈にカテーテルを留置し、持続的に抗癌剤を注入する持続動注療法が行われることもあります。また、肝細胞癌が破裂した場合は、TAEが止血術として最も有用な治療です。

放射線治療

癌が肝臓の大血管(門脈や静脈)に浸潤している場合、年齢や併存疾患のため標準的治療が困難な場合、放射線治療を行うことがあります。TACEや化学療法と組み合わせて行うこともあります。粒子線という特殊な放射線治療は、より治療効果が高いと報告されていますが、保険適応はなく、当院では施行できません。治療可能な施設への紹介を行います。

化学療法

局所療法(外科的治療、穿刺局所療法、経肝動脈的治療)の適応がない場合や、局所療法に不応となった場合は、化学療法が考慮されます。また肝臓以外に転移がある場合、全身化学療法が行われます。従来の抗癌剤は肝細胞癌に対する効果がありませんでしたが、新たに開発された分子標的治療薬は生命予後改善効果が認められています。現在の標準の化学療法として、1次治療ではソラフェニブが、2次治療ではレゴラフェニブが、投与されます。

緩和ケア

肝機能が悪いため肝細胞がんに対する治療ができない場合や、肝細胞がんによる症状(痛み等)が強い場合は、がんそのものへの治療よるも、つらい症状を和らげる治療を行います。